日月(ひつ九)の巻 第040帖

日月(ひつ九)の巻 第40帖
ここに伊邪那美の命 語らひつらく、あれみましとつくれる国、末だつくりおへねど、時まちてつくるへに、よいよ待ちてよと宣り給ひき。ここに伊邪那岐命、みましつくらはねば吾とつくらめ、と宣り給ひて、帰らむと申しき。ここに伊邪那美命 聞き給ひて、

御頭みかしら大雷おおいかつち、オホイカツチ、
胸にいかつち、ホノイカツチ、
御腹には黒雷くろいかつち  黒 雷クロイカツチ

かくれに

折雷さくいかつち、サクイカツチ、

左の御手に

若雷わきいかつち、ワキ井カツチ、

右の御手に

土雷つちいかつち、ツチイカツチ、

左の御足に

鳴雷なるゐかつち、ナルイカツチ。

右の御足に

伏雷ふしいかつち、フシ井カツチ、

なり給ひき。伊邪那岐の命、是見こみ、畏みてとく帰り給へば、妹伊邪那美命は、よもつしこめを追はしめき、ここに伊邪那岐命 黒髪かつら取り、また湯津々間櫛ゆつつまぐし引きかきて、なげて給ひき。伊邪那美命 つきの八くさの雷神いかつちかみ黄泉軍よもついくさへて追ひ給ひき。ここに伊邪那岐命 十挙剣とづかのつるぎ抜きて後手しりへてにふきつつさり、三度 黄泉比良坂よもつひらさかの坂本に到り給ひき。坂本なる桃の実一二三ひふみ取りて待ち受け給ひしかば、ことごとに逃げ給ひき。ここに伊邪那岐命 桃の実に宣り給はく、みまし吾助けし如、あらゆる青人草の苦瀬うきせになやむことあらば、助けてよと宣り給ひて、また葦原の中津国にあらゆる、うつしき青人草の苦瀬に落ちて苦しまん時に助けてよとのり給ひて、

おほかむつみの命、
オオカムツミノ命

と名付け給ひき。ここに伊邪那美命 息吹き給ひて千引岩ちびきいわを黄泉比良坂に引きへて、その石なかにして合ひ向ひ立たして つつしみ申し給ひつらく、うつくしき吾が那勢命なせのみこと、時廻り来る時あれば、この千引の磐戸、共にあけなんと宣り給へり、ここに伊邪那岐命しかよけむと宣り給ひき。ここにいも伊邪那美の命、みましの国の人草、日にちひとまけと申し給ひき。伊邪那岐命 宣り給はく、吾は一日ひとひ千五百ちいほ生まなむと申し給ひき。この巻二つ合して日月の巻とせよ。十一月三十日、ひつ九のか三。