月光の巻 第五十七帖
そなたは失業したから仕事を与えてくれと申してゐるが、仕事がなくなってはおらんぞ。いくらでもあるでないか。何故に手を出さんのぢゃ。そなたはすぐ金にならねば食って行けない、金にならぬ仕事は出来ぬ、自分はよいが妻子が可哀さうだから、などと申してゐるが、どんな仕事でも、その仕事にとけ込まねば、その仕事になり切らねばならんのに、そなたは目の先の慾にとらわれ、慾になり切って、目の色を変えて御座るぞ。それでは仕事にならん。仕事は神が与えたり人が与えてくれるのでないぞ。自分自身が仕事にならねばならん。この道理さへ判れば、失業はないぞ。自分が仕事ぢゃからのう。